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京都地方裁判所 昭和43年(行ウ)2号 判決

当事者の表示

別紙当事者目録の通り

主文

本件を却下する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

別紙訴状請求の趣旨のとおり

二  被告

別紙答弁書申立の趣旨とおり

第二当事者の主張

一  原告

別紙訴状請求の原因および原告準備書面のとおり

二  被告

別紙答弁書申立の理由のとおり

理由

被告が、被告主張の日(本訴提起後)、原告主張の審査請求につき裁決と題する行為をなし、その裁決書の謄本が、被告主張の日、原告に送達されたことは原告の自白するところである。

原告準備書面第二、第三の主張に対する判断。

行政行為の存在、不存在は、行政行為とみられるべき外観の具備の有無によつて区別されるべきであるから、原告の前記自白によれば、右裁決は、行政行為として存在している。右裁決の無効を認めうる証拠はない。

本訴提起後とはいえ、裁決がなされた以上、原告の本件不作為違法確認の訴の利益は消滅した。

よつて、本件訴を却下することとし、訴訟費用の負担については、原告主張の審査請求につき、本件訴提起当時いまだ裁決がなされず、この種裁決をなすについて通常必要と考えられる相当の期間を経過した後に至つて裁決がなされたものであり、本件訴提起は、原告にとつて必要であつたと解しうるから、民事訴訟法第九〇条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小西勝 裁判官 松本正一 裁判官 寒竹剛)

当事者目録

京都市下京区下松屋町五条上ル下長福寺町二六七

原告 湯川富造

右訴訟代理人弁護士 柴田茲行

同 平田武義

同 高谷昌弘

同 渡辺馨

同 吉原稔

同 稲村五男

同 小林義和

同 莇立明

同 山口貞夫

大阪市東区大手前之町

被告 大阪国税局長

佐藤吉男

右指定代理人 鎌田泰輝

同 宇野義栄

同 阿部康雄

同 下山宣夫

同 谷本政利

同 堀島武朗

訴状

当事者の表示 別紙当事者目録の通り

審査請求に対する不作為違法確認の訴

訴額 金五万円也

請求の趣旨

一、原告が下京税務署の原告に対する昭和四十二年一月十四日付異議申立棄却決定に対し、同年一月十三日被告に対してだした審査請求につき被告が何らの応答をなさないことは違法であることを確認する。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

請求の原因

第一、審査請求に至るまでの経緯

一、原告は畳業を営むものであつて、京都府下の零細商工業者が、自らの生活と営業をまもることを目的として組織した下京民主商工会ならびにこれら京都府下の各民主商工会、各料理飲食業組合が結集した京都商工団体連合会(通常京商連と略称)の会員である。

二、原告は昭和三十九年度以降各年分の所得税の確定申告として訴外一下京税務署長に対し白色申告により当該各年度分総所得金額を左表記載の通り申告したところ、右訴外税務署長は原告の各年度所得額を夫々左表記載の通りに更正する処分を行いその旨原告宛通知を行つた。

〈省略〉

三、ところで右更正決定書にはその理由が附記されておらず、かつ原告としては前記確定申告は自主的に公正な申告をなしたものであるので違法かつ不当なものなりとして昭和四十一年十月二十八日訴外税務署長宛異議申立をなした。

四、これに対し訴外税務署長は昭和四十二年一月十四日原告の異議申立を棄却するとの決定をだし一月十四日原告宛通知をだした。

五、右異議申立決定書の理由も、同規模、同業種の一般的所得率によると原処分を上まわりますので棄却する

とのみしか附記がなく、何故に原告の申告が否認されたかの理由が不明であつたので再び原告は昭和四二年一月十三日審査請求をだした。

しかし、右審査請求以来今日まで既に一年五ケ月を経過するにも拘らず被告は原告に対し何らの裁決もなさない。

第二、本件不作為の訴を提起する利益

一、国税通則法第八七条一項ならびに行政事件訴訟法第八条二項によると審査請求をなした日の翌日から起算して三月を経過したとき、その他正当な理由が存するときは原処分取消の訴を提起することが出来る旨の規定が存するが、これら規定の存するにもかかわらず本件請求をなす理由は次のごとくである。

(1) 課税処分については一般の行政処分と異り、異議申立と審査請求という二段階の訴願前置が要求されておるが、被告は不当に長期間にわたつて裁決を下さないことにより行政不服審査法第一条の「簡易迅速に国民の権利利益の救済をはかる」との規定に違反し、納税者の「簡易迅速に救済さるべき不服申立の権利」を侵害している。

(2) 不当に長期間にわたつて裁決をおくらせ、そのことによつて協議団が反復して調査を行い取引先の不信をつくりだすなど営業妨害を行い、それらの行為によつて納税者を動揺させ、審査請求の取下げを期待し、または取下げを強要する不当行為を行つている。

(3) 不当に長期間にわたり裁決をおくらせ、その結果不服申立中であり、またその審査対象となつている更正処分を承認していないにもかかわらず、差押え等の徴収処分を強行し、不動産の担保価値を傷つける等不当に財産権を侵害している。

(4) 審査の対象となつている更正処分の課税根拠は何一つ明らかにされず、異議申立の決定にも何ら具体的な理由の明記がなく処分の公正妥当性が全く不明で、当該更正税額を承諾することが不可能であるにもかかわらず、長期間にわたり裁決が放置されている間、多額の延帯金が一方的に累積されきわめて多大な金銭的損失をうけている。

(5) 以上の如く審査請求の裁決が長期にわたつて不当に遅延している結果、納税者の財産権、営業権、生存権等が侵害され租税法律主義の建前がじゆうりんされる等憲法違反の税務行政がますます助長されている。

二、結局、現在の京都地方裁判所における行政訴訟の進行に照らすと右各種の事情は被告の裁決のあり方を直接是正するのでなければ解決されないこと、ならびに前記法条により取消訴訟に飛躍提訴することは、国税局協議団による現行不服審査制度のひいては訴願前置の趣旨を没却する結果に至るといわねばならない。

第三、不作為の違法性

一、国税通則法八三条によると被告が審査請求について裁決をする場合には協議団の議決に基づかなければならないこととなつており、この趣旨は大量かつ回帰的な課税処分の性質上第三者の立場から迅速慎重な審査をなし納税者の権利を保護せんとするにある。

このような協議団制度の趣旨に照らすと、第三者としての公正保持のために審査請求につき慎重な審議がなされることが求められるも、これが審査に相当な期間は六ケ月であり最大限みても一年で充分である。

二、前述のごとく裁決の遅延は訴願前置制度の趣旨をじゆうりんし原告らの財産権、営業権、生存権を侵害するものであり、かつ租税法律主義にも違反するものであつて違法である。

三、これらの審査請求事件は被告が京都府民主商工会及び料理飲食業組合の結社権、団結権、名誉権を侵害し、組織破壊の目的をもつて質問検査権を乱用し、大量の「更正・決定」を乱発したことに起因するものである。

従つて被告の裁決の遅延は原告が同会員である故をもつて故意に他の審査請求者とは差別的になされたもので違法である。

以上の理由により被告が原告の審査請求につき応答なさないのは違法であるので本訴に及ぶ

昭和四三年六月八日

右原告代理人

昭和四三年(行ウ)第二号

原告 湯川富造

被告 大阪国税局長

昭和四三年八月一〇日

被告指定代理人 鎌田泰輝

宇野義栄

阿部康雄

下山宣夫

谷本政利

京都地方裁判所第二民事部御中

答弁書

本案前の答弁

一、申立の趣旨

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

二、申立の理由

本訴において、原告は、被告に対してなした訴状の請求の原因第一項記載の審査請求について、被告が相当の期間内に裁決をなすべきにもかかわらず、これをなさないことについての違法の確認を求めておられるが、当該審査請求についての裁決は、昭和四三年六月二四日行なわれ、裁決書の謄本は、同年七月六日原告に送達された。

従つて、本件訴の対象である不作為の違法確認を求める法律上の利益は最早存在しないのであつて、本件訴は不適法な訴として却下さるべきである。

原告準備書面

事件番号 昭和四三年(ウ)第 号

当事者 原告

被告 大阪国税局長

事件名 審査請求に対する不作為違法確認事件

右事件につき左記のとおり弁論を準備する。

昭和四三年八月 日

代理人弁護士 山口貞夫

同 柴田茲行

同 平田武義

同 高谷昌弘

同 渡辺馨

同 吉原稔

同 稲村五男

同 小林義和

同 莇立明

京都地方裁判所第 民事部 御中

第一、被告大阪国税局長は、答弁書において、原告の審査請求に対しては、既に裁決ずみであり、したがつて本件訴訟は訴の利益を欠くものとなつたから、これを却下すべきであると主張する。

原告は、なるほど被告がその答弁書において主張する日時(これは本訴提起ののちである)に、その主張のような内容の「裁決」と題する行為をなしたこと自体はこれを認める。

第二、しかし乍ら右「裁決」は、次に述べるように余りにも明白で且つ余りにも重大な違法を伴うものであつて、その法的価値は「無」である。このような「裁決」はそれが行政行為として一応存在するけれども、瑕疵あるものとして完全な効力を生じない場合、即ち無効又は取消し得べき行政行為とは質的に異なり、違法の明白性、重大性の故に行政行為の不存在の場合に該当するものとして取扱われるべきである。或いは、行政行為の適法性の推定が生じないところの絶体無効の場合に当るものとして取り扱われるべきである

このように被告国税局長のいう「裁決」が行政行為としての存在を認められないものである以上、かかる「裁決」によつて本訴提起の正当の利益の有無が左右されるいわれはなく、訴は依然適法である。

第三、原告が被告のいう「裁決」を指して違法であるというのは、次のような事実にもとづく。

一、裁決主体たる被告の有する目的の違法

(1) 行政行為の存在が許され、その存在が必要とされる第一の要件は、その行政行為が目的において公益に適合するということである。公益に適合するとは、これを原理的に云えば結局において、日本国憲法の基本原則、即ち、平和主義、民主主義、基本的人権尊重主義の原則に忠実であるということにほかならない。

(2) 原告は、訴状に記載したように、京都府民主商工会の会員であるところ、同会はまさに日本国憲法の平和的、民主的諸条項の完全実施を支持、推進することを重要な目的の一つとする結社である。ところが被告は、原処分庁と一体をなして民主商工会の組織破壊を多年にわたつて計画し、実行してきた。本件のような自主申告制度を無視した「退職裁決・決定」が民商会員に限つて大量に乱発されたのは、この計画の重要な一環をなすものである。

(3) かかる非公益的行政目的は、被告国税局長(行政官庁としての長を意味するのであつて、現にその職にある人個人を意味するものでない)が多年に及んで継続的に有するものであつて、現に消滅することなく続いている。本件裁決はそのような被告によつて行なわれた。

(4) 被告のいう「裁決」が、原告の提出した本件審査請求の時から不当にながい日時を経たのちに行なわれたものであることは明らかであり、その時間的経過そのものに基因する違法性については後述するが、何故にそのように不当にながい期間、本件審査請求がいたずらに放置されたかというその原因がまず検討されなければならない。

被告は、単に事実上怠業していただけではない。裁決を下さない状態を意識的にながびかせることにより、納税義務者たる原告の不利益期間をながびかせて、その社会的ならびに個人的地位、法的、政治的地位、心理的ならびに経済的立場を不安定ならしめ、ひいては民主商工会の団結を弱める作用をねらつたものである。

(5) 被告は、原告から本件訴訟を提起されたのち、あわてて「裁決」を下してきたが、そのようなやり方自体、本来の公益目的を実現するための行政行為のあり方に反し、訴訟にそなえ、外形をととのえることを目的とするものとして不当であるし、かえつてその故に前述のような民商弾圧のために「裁決」を故意に延引していたという原告主張の正当性が一層明白となつた。

二、意思の欠陥

「裁決」もまた行政行為である以上、公益目的を実現するという目的意思を伴わなければならない。ところが本件「裁決」は前述のように単に本件訴訟にそなえて外形をととのえるべく行なわれたものにすぎないから、法律行為という意味での意思行為であるとはいえない。

三、裁決の時期の違法

(1) 課税処分については、異議申立並に審査請求という訴願前置主義がとられているが、本来、この制度の趣旨は、税務行政の特殊的性格に鑑みて、専問的能力を有するものが原処分の当否を検討することにより、妥当な解決を期するとともに「簡易迅速に国民の権利利益の救済をはかる」(行政不服審査法第一条)ことを目的とするものである。

(2) 国家の権力作用によつてもたらされた国民の権利義務の存否が法的に又は事実上不確定であるという状態がながくつづくことは、国民主権、基本的人権尊重の建前に照らして好ましくない。

(3) 国税通則法の定めるところによれば、国税に関する処分についての異議申立又は審査請求は当該処分がなされたことを知つた日の翌日から起算して一ケ月以内にしなければならない(七六条、七九条)。このような短期の除斥期間の定めを設けた趣旨を、単に税務当局の側から行政作用の円滑な行使を期するためであるとのみ解するとすれば、それは極めて官僚的、専制主義的理解である。実はそうではなく、まさに前記(1)(2)に述べたような、国民の権利利益の早期救済という理念に出たものである。

(4) してみれば、一方税務当局の、異議申立又は審査請求について審理し判断するに要する期間についても、おのずから常識的な限界があるものと考えるべきであつて、当局の都合により、いつまでかかつてもよいという性質のものではあり得ない。

その常識的な限界は、訴状において主張したように通常六ケ月、事案のもつとも複そうし難解なものにあつても、一年をもつて十分とする。右期間を徒過することは、理由の如何を問わずそのことだけで違法である。しかもそれだけでなく、この期間を徒過することによつて、違法性の度合は加速度的に累乗されるものというべく、遂に本件の如き訴訟を提起されたのちに至つては、その違法状態は極致に達したものといわなければならない。

(5) かくして、被告の主張する「裁決」は、国税通則法の予定する本来的意味での裁決であり得ないものと断定する次第である。

第四、なお、以上に述べた原告の主張は、本件弁論の全趣旨に照らして、明白であるか又は合理的に推定しうる事項の域を出るものではないから、特に立証の努力を要しない。

本日直ちに弁論を終結して、請求の趣旨に記載したところの原告の要求を認容する判決を速やかに宜告されることを望む次第である。

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